第4回GMHS事例発表「『へそ』への刺激が中高年者の気分に与える影響について」

2017年8月5日 京都大学で開催された「第4回グローバルメンタルヘルスセミナー」での事例発表

「『へそ』への刺激が中高年者の気分に与える影響について」 安井義博

 

 

近年、様々な研究を通じて、呼吸に集中するなどの瞑想法が、精神的ストレスを軽減させる作用があるとの報告がなされています。瞑想法には様々な手法があり、今回、単純な呼吸を用いた瞑想と「へそ」への外部刺激を用いた瞑想法とを比較する機会を得ましたので報告したいと思います。

方法として、対象者は精神的な疾患のない60歳から82歳までの28名。平均年齢70.5歳でした。そのうち、ヨガなどの習慣的な瞑想経験者は半数の14名おられました。呼吸群とへそ刺激群に分けて、それぞれ行いました。人数は、呼吸群が12名(男性4、女性8)、へそ刺激群が16名(男性5、女性11)。平均年齢は、呼吸群が72歳、へそ刺激群が69.4歳でした。

呼吸群に実際に行った瞑想は、呼吸に注意を向けてもらって3分間行いました。声掛けとしては「楽に座って、自分の呼吸を感じて、その感じに集中してください」と言いました。次に、へそ刺激群のほうには、専用のT字型の棒を用いて「へそ」を刺激しながら3分間行いました。声掛けとしては「楽に背もたれにもたれて、おへそを繰り返し棒で押しながら、その刺激に集中してください」と言いました。

実際の検査の方法は、気分プロフィール検査という心理検査POMS短縮版というのがありますが、それを用いて「呼吸群」と「へそ刺激群」の瞑想前後の変化を測定しました。気分プロフィール検査というのは、質問項目が30問からなっており、「緊張」「抑うつ」「怒り」「活気」「疲労」「混乱」の6つの尺度から、気分や感情の状態を測定する心理検査です。

分析としては、呼吸群とへそ刺激群で、それぞれ瞑想実施前後の変化を統計処理しました。また、瞑想前後で変化した数値を呼吸群とへそ刺激群で統計的に比較しました。

統計の解釈について少し説明させてもらいます。統計的に有意であるという言葉がありますが、有意であるというのは、比較したAとBが異なる確率が高く、その差が偶然である可能性が低いことを表しています。また、その確率の数値が低ければ低いほど、強い差があることを意味しており、たとえば、有意水準1%というのは、その差が偶然である可能性が1%以下であることを表しており、有意水準5%よりも強い差があることを意味しています。今回の調査では、有意水準5%以下を有意であるとしました。

これが結果です。

呼吸群を見てみます。それぞれ、緊張、抑うつ、様々な尺度がありますが、緊張に関しては1%水準で有意な差が見られました。抑うつの項目に関しては、有意差は得られませんでした。怒りの項目に関しては、5%水準で有意差が得られました。活気に関しては有意差なし、疲労に関しては1%水準で有意差が見られました。混乱に関しては有意差なしという結果でした。

これは、それらの結果の平均値です。

青のグラフは実施前、赤のグラフが実施後で、点数を平均化したものです。例えば、これは緊張の項目なんですけど、緊張の項目が青の時点では高かったが、それが呼吸の瞑想を行うことで下がっているというようなデータです。他の項目についても同じように、青が前の数値で、赤が後の数値という風になっています。全般的に下がる傾向が見られて、先程お話したデータを平均化したものです。


次にへそ刺激群ですが、へそ刺激群のそれぞれの尺度を見ていくと、例えば、緊張の項目では1%水準で有意差が見られ、抑うつの項目でも1%水準で有意差が見られ、怒りの項目でも1%水準で有意差が見られました。活気の項目に関しては有意差が見られず、疲労、混乱に関しては有意差が1%水準で見られるという結果でした。

同じようにへそ刺激群のグラフです。

青が実施前、赤が実施後の点数を平均化してグラフにしたものです。実施前に比べて、例えばこれも緊張で見ると、点数が下がって緊張が緩和されたという結果になりました。

次に、呼吸群とへそ刺激群の変化の比較です。

これは、呼吸群とへそ刺激群で、前後の数字がどれだけ変わったかというのを見た数字です。緊張に関しては有意差が見られず、抑うつに関しては5%水準で有意差が見られました。怒りの項目では、傾向がありというのは10%水準だとそういった表現になるんですが、より差がある傾向が見られたということです。あとの項目については有意差が見られませんでした。

これも同じようにグラフで見たいと思いますが、黄色が呼吸群の変化した値、瞑想前後で変化した値です。

これに比べて緑のグラフは、へそ刺激群です。へそ刺激群の瞑想前後で変化した値、これは緊張のグラフですが、それぞれ、抑うつ、怒り、活気、すべての項目でへそ刺激群のほうが少し差が大きかったというような結果になりました。

考察です。呼吸群、へそ刺激群ともに3分間の瞑想後、気分や感情が安定する傾向が見られました。また、呼吸群と比較して、へそ刺激群では、より強い差をもって気分や感情が安定する傾向が見られました。へそ刺激による瞑想は、今ここにある体の感覚への注意の集中のみならず、内臓への物理的なマッサージ効果も期待できると考えられます。結果として、筋膜連鎖などによって横隔膜の柔軟性が促進され、より深い呼吸がしやすくなったり、それによってリラクゼーション効果が高まった可能性が考えられます。また同時に、藤田先生の講演にもあったように、内臓への血流も増加して、ストレス軽減の効果を高めた可能性も考えられると思います。

最後になりますが、今回、「へそ」への刺激の作用について、中高年者の気分の変化の観点から調査を行いました。気分や感情のコントロール力というのは、ストレス管理に関係しており、自律神経やホルモンバランスに影響を与えると考えられます。しかし、考察でも述べたように、「へそ」への刺激というのは、気分のコントロールのみならず、内臓に対する直接的な刺激による様々な身体的な効果も期待できると思います。例えば、便秘の解消、腸内環境の改善、体温の上昇、冷えやむくみの軽減、免疫力の向上等のアンチエイジング効果があると考えられます。

今後は、「へそ」への刺激が身体機能に及ぼす影響についても調査をし、忙しい現代人でも短時間でできて身体に効果的な瞑想といった観点からも調査を続けていきたいと考えています。ご清聴ありがとうございました。